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2021年に40代で山口県から移住して以来、知夫村で知夫里水産株式会社を営む佐藤さん。  ​  最新の加工技術を導入し、漁業の活性化を図るべく建設された、村の一大事業。地元の漁業者と協力し、知夫里島で取れた魚の加工品を生産して、本土の高級レストランなどに販売しています。

2021年に40代で山口県から移住して以来、知夫村で知夫里水産株式会社を営む佐藤さん。

最新の加工技術を導入し、漁業の活性化を図るべく建設された、村の一大事業。地元の漁業者と協力し、知夫里島で取れた魚の加工品を生産して、本土の高級レストランなどに販売しています。

釣り大好き少年だった頃からの、大の魚好き。現在もとにかくいい状態で「魚を美味しく食べる」ための研究を続けています。自然豊かな島で獲れる鮮度の良い魚で、精度の高い研究と生産を続ける佐藤さんに、島の魅力について聞きました。

幼いころから、頭には魚しかなかった

可愛らしいタナゴが大好きだった少年時代

 

東京育ちとのことですが、小さかった頃はどのような記憶がありますか?

佐藤:毎年夏休みになると両親が秋田の祖父母の家に連れて行ってくれて、夏が終わると迎えに来る、そんな生活をしていました。その間はずっとおじいさんと渓流釣りをしていたんです。実は一番好きなのは、海釣りじゃなくて川釣りなんですよ。川ではヤマメやイワナを釣るのが好きでした。その中でもタナゴが超かわいくて。笑 ピカピカして綺麗で、めっちゃ好きだったんですよ。小学生の頃はちょっと変わった子で、なぜか「大物を釣りたい!」みたいな気持ちは全くなかったんです。

 

分子レベルの研究で、魚の美味しさを追求したい

学生時代での進路も、魚に関係があるんでしょうか?

佐藤:中学生の頃から進学するなら水産大学、そう決めていました。そして東京水産大学(現、東京海洋大学)に進学して、その後は山口県にある燻製加工をメインとする水産加工会社に勤めていました。山口も魚が美味しくて、魚中心の生活をしていましたね。そこでは、まだ大学でも研究していないような、分子レベルで究極の研究をしようとしていたんです。

知夫村との出会いのきっかけはなんだったのですか?

佐藤:鮮度や大きさが揃っている魚で燻製の開発をしたいと思っていた時に、島の特産品である牡蠣の燻製事業を考えていた知夫村に声をかけていただいて、この島を知りました。その後、魚の水産加工場建設のアドバイザーとして、「どうやって作っていくか」みたいなことを進めていたんです。何度も足を運んで、そうこうしている内に、結局僕がやることになっていました。笑 でも結果的に今、好きなことができてるので幸せですね。

知夫村に来た決め手は、漁師との距離が近いから

人口約600人、周囲27kmの、隠岐諸島の中でも最も小さな島。知夫里島に移住を決めるには、やはりこの島ならではの魅力があったのでしょうか?

佐藤:この島に来た一番の理由は、自分で魚の状態を確認できるからです。漁師さんから魚を受け取る時には、必ずバラつきがあるんですけど、知夫村ではその個体差や鮮度の違いが自分の目で確認できます。それに、漁師さんとの関係が近くて、魚の扱い方まで見えるんです。だから「この人がどの状態でどこで取ってきた魚か」というのがわかります。魚の状態を深く知る事ができるから、精度が高い研究ができるんです。

それができるのは「競りがない(市場がない)」からなんです。競りは売るシステムとしては非常に優秀だと思うんですけど、競りがないから、漁師さんが持ってきたものを速攻で受け取れるんですよ。本土の市場の場合、前日取れた魚もあるし、早朝の競りの時でも3〜4時間放置された魚が多いんです。でも、この島ではとにかく鮮度のいい魚がすぐ手に入るんですよね。

2021年に40代で山口県から移住して以来、知夫村で知夫里水産株式会社を営む佐藤さん。  ​  最新の加工技術を導入し、漁業の活性化を図るべく建設された、村の一大事業。地元の漁業者と協力し、知夫里島で取れた魚の加工品を生産して、本土の高級レストランなどに販売しています。

知夫里島の魚が新鮮な理由にはそういった背景があるんですね。新鮮な状態の魚を使って、どのような研究をされているのですか?

佐藤:「理論じゃない、魚の美味しさ」っていうものがある気がしているんです。大学の先生や研究者の方もまだ分かっていないような、魚の美味しさが。数値にはなかなか現れないけど、味に変化をもたらす部分ってあるはずなんですよ。僕はそこがすごく気になっていて、実験を繰り返しています。魚って、ちゃんと加工して調理してあげればなんでも美味しいはずなんです。実際、先入観とか全部取っ払って食べてみると、本当に驚くぐらい素晴らしいお魚がいっぱい世の中にあるんですよね。笑

2021年に40代で山口県から移住して以来、知夫村で知夫里水産株式会社を営む佐藤さん。  ​  最新の加工技術を導入し、漁業の活性化を図るべく建設された、村の一大事業。地元の漁業者と協力し、知夫里島で取れた魚の加工品を生産して、本土の高級レストランなどに販売しています。

魚加工のおいしさや、

好きなことを追求する日々

もっと美味しい水産加工品開発への挑戦

体育館ほどもありそうな大きな施設ですが、どのような加工品を作っているんですか?

佐藤:主に燻製や干物、ソースなどの加工品を作っています。そのなかでも燻製はけっこうこだわってやっています。この施設内に燻製機や燻製部屋を作っていて、時間や温度を調整しながら、燻していくんですが、外の気温や湿度、魚の状態によっても味や食感が変わってくるんです。ここではウエットなもちっとした食感の燻製を作っているのですが、噛んだ時の印象や味をなるべく均一にするのにも研究を重ねています。なるべく自然のままで作っているので保存料などは一切入れていないんです。味の均一化の調整なども苦労があるんですが、「うまい!」をとことん追求している日々ですね。

高級レストランやホテルに卸す仕事を主にしているとのことですが、作る時にはどのようなことを意識されているのでしょうか?

佐藤:美味しさを追求すると同時に、料理人にどうバトンタッチするかを考えています。例えば野球の投手の場合、先発は漁師、僕らは中継のポジションで、ストッパーは料理人なんですよね。だから僕が「本当はこの方がいいのにな」と思っても、改善を求められたらすぐ修正しますね。それは僕達にはわからないような、料理を食べるお客さんに対しての意図が料理人にあるからだと思うんですよ。

2021年に40代で山口県から移住して以来、知夫村で知夫里水産株式会社を営む佐藤さん。  ​  最新の加工技術を導入し、漁業の活性化を図るべく建設された、村の一大事業。地元の漁業者と協力し、知夫里島で取れた魚の加工品を生産して、本土の高級レストランなどに販売しています。

研究や実験を繰り返しながら、とてもサイエンス的な考えを持っていますが、販売に関して大切にしていることはありますか?

佐藤:水産加工は消費期限の調整が大変なんです。お店に出す料理の場合は消費期限が30分くらいだと思うんですけど、加工品は1ヶ月などの長い期間、同じクオリティを保たないといけないんです。もちろん防腐剤は入れないので「本当はこうしたいんだけどできない」っていうのが、結構大変です。「多少の美味しさを犠牲にしても、塩を効かせて持たせないといけない」とか、味とのバランスを考えることがよくあります。

その塩も自分でここの海水から作ってるんですよ。これもいろいろ試しながら、どれがいいかな、どれが合うかなと、試行錯誤しています。他にも魚醤を一から作ったりしているんですが、失敗することもあります。温度や時間管理など、どれも日々研究しながら作っているんですが、美味しいものへの探究心ですね。

2021年に40代で山口県から移住して以来、知夫村で知夫里水産株式会社を営む佐藤さん。  ​  最新の加工技術を導入し、漁業の活性化を図るべく建設された、村の一大事業。地元の漁業者と協力し、知夫里島で取れた魚の加工品を生産して、本土の高級レストランなどに販売しています。

好きなことはどんどん追求してしまう

お仕事ではひたすら魚の研究を進めているとのことですが、休日は何をして過ごしていますか

佐藤:休日でも魚を釣りに行って、捌いて干物にしたり、燻製を作ったりとかしています。あとは写真と、車と、紅茶と…電車も好きです、鉄オタですね。笑 もう本当に乗ることが好きな鉄オタで、ただ乗りに行って、ただ帰ってくるだけでいいぐらい好きなんです。廃線になってしまった北斗星に最後に乗れたのは本当にいい思い出です。料理もとても素晴らしくて。山陰を走るサンライズ出雲は、島から東京に向かう時はだいたい乗っていて、寝台特急という空間が最高なんです。

他にも、最近は写真の機材やレンズに凝っていて、花のマクロ写真なんかも撮っています。構図とか、ボケ具合とか、とにかくやってて楽しいんです。どんどん機材が増えていってしまって大変なんですけどね。笑

魚への情熱を貫ける、島の環境に感謝

魚好きで気の合う人とプロジェクトを進めたい

人口よりタヌキが多いような個性的なこの島。村の移住者に対してはどのような印象がありますか?

佐藤:やっぱりこの島に来る人は、変わってるかな。笑 自然が大好きか、なにかしら理由がないと来ないと思います。僕の場合であれば魚とか、専門的な部分やニッチのところに特化していますしね。そういう特殊な事が好きな方が知夫に魅力を感じて来てると思います。

専門性のある人が知夫に多いようですが、例えばどんな人と働きたいですか?

佐藤:やっぱり一番は「魚が好きな人」ですね。もちろん、釣りや漁業をするのが好きな人が来てくれても嬉しいです。あとは「食に興味がある人」ですかね。「ちょっと食べ歩きするのが好きです」みたいな方とも、一緒に働いてみたいですね。

2021年に40代で山口県から移住して以来、知夫村で知夫里水産株式会社を営む佐藤さん。  ​  最新の加工技術を導入し、漁業の活性化を図るべく建設された、村の一大事業。地元の漁業者と協力し、知夫里島で取れた魚の加工品を生産して、本土の高級レストランなどに販売しています。

プロジェクトの今後の展望はどのように考えていますか?

佐藤:生産や研究に没頭できる環境作りを村がしっかりサポートしてくれたり、村の人が後押ししてくれています。この最新設備を使えているのも、僕に声をかけてくれた村や役場の皆さんがいたからなんです。それに感謝して、お返ししなきゃいけないな、と本気で思ってます。そのために、プロジェクトを成功させなくては、と1番に感じていますね。

現在、小売での販売はあまりできていないので、たくさんの人に食べてもらうために早く取り掛かりたいなと思っています。将来的にはプロの料理人が求めるものだけでなく、僕が「これを食べてほしい!」と思えるような商品が一つでも作れたら面白いかなと思っています。ちなみに、僕は割と薄味の方が好きなんですけど、いろんな好みもあると思うので、最大公約数か最小公倍数かでスパッと決めて、早く商品化へ進めていけたらいいのかなと考えています。

純粋に知りたい、魚への愛

佐藤:僕にとって魚を扱うということは、ライフワークでもなく、研究とかでもなく…純粋に知りたいんです。単純に美味しい魚の味わい、知りたいじゃないですか。あとは魚の命を頂いているわけですから、とにかくいい状態で食べたいという気持ちですね。

自分の好きなことをやれているから、たとえ睡眠を削っていたとしても別に苦じゃないし、幸せです。明日はどの魚の燻製をやろうかなとかを考えているだけで楽しいんです。好きなことやって、幸せな人生ですよね。それを実現させてくれている、知夫のこの環境は本当にありがたいと思っています。

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